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Detroit: Become Human オモロイド

 最初にアンドロイドという言葉が使われたのは1886年、「未来のイブ」というSF小説らしい。ギリシャ語で「人、男性」を意味する"andro-"という単語と、「~のようなもの」を意味する英語の接尾辞"-oid"を組み合わせた造語だ。他にもヒューマノイド(human+oid、人っぽいもの)やサイボーグ("Cybernetic Organism" の略らしい)という言葉で知能を持つ機械を呼称するのも聞いたことがあるだろう。

 知能を持つロボットが主役の作品なんてありふれている。白黒アニメの時代から鉄腕アトムがあったし、ドラえもんは去年40週年を迎えていたらしい。それにGoogleがAIで電話予約を行うデモを発表したようで、もはや会話できるロボットが登場するだけの作品はサイエンス・ノンフィクションと呼称しないといけないのではないだろうか。

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 しかし、知能を持つというのはどうしたら証明できるだろう。チューリングテストというものがある。相手が機械であることを隠した状態で人間に機械と会話させる。会話した人間が相手を人間と思えばテスト合格、晴れてその機会は知能があると判定する、というテストだ。が、本当にそれで判断できるのだろうか?そもそも人間である他人でさえ、知能、感情、思考や自我が存在するかどうか私達は知りえない。私達が知っていることは私自身が思考していることのみだ。他の人間はロボットで、知能があるように見えるが与えられた刺激に自動で反応するただの機械かもしれない。

 人同士でさえあるかどうか定かでない知性を、人でないものの中に存在することを認め、尊重する。そのために必要なものはテストでなく、見えないものを信じる心かもしれない*1

 今から紹介するDetroit: Become Humanというゲームは、こういうことを考えさせられるゲームだ。

Detroit: Become Human

 2018年5月25日発売のアクション・アドベンチャーゲーム。販売元 ソニー・インタラクティブエンタテインメント。開発元はクアンティック・ドリーム*2。ユーザが選んだ選択肢やQTE*3の成功・失敗で物語が大きく変わる。Life Is Strangeのような作品。

 このゲームは今から20年後、2038年の世界を描写したSFだ。もはやヒトそっくりの高機能アンドロイドが今のルンバ以上に普及しており、警備や清掃、工事作業の仕事もこなしている。感情、意思はプログラムされておらず、淡々とヒトに命令された仕事をこなす存在だ。作品冒頭で、アンドロイドがヒトを殺害する事件が起きる*4。そのアンドロイドはまるで意思や感情を持ったような振る舞いをし、「変異体」と呼ばれた。変異体は日に日に増殖し、社会は混乱を増していく。そして、あなたの選択が人類と知能・自我を持つアンドロイドたちの未来を決める。そういうゲームだ。

圧倒的リアリティ

 ビジュアルが美麗なこともさることながら、非常に作り込まれた時代設定が秀逸だ。街中で走っている車はほぼ自動運転。個人で車を持っているのは少数のようで、利用されている車はほとんど自動運転のタクシーかバスのようだ。軍隊の装備もメカメカしい。むしろ重装備な軍人のほうがアンドロイドたちよりロボットのように見える。

 アンドロイドたちの機能や街中での扱いもリアリティを感じる。街中にはアンドロイド充電スペースがいたるところにある。アンドロイドは決済の機能もあり、持ち主がいなくとも一人(一体?)でおつかいに行ってもらうこともできる。

 このような便利な未来が描かれているが、負の側面も社会情勢に反映されている。アンドロイドがほとんどの仕事をこなしてしまい、失業率が上昇し続けているのだ。2018年の現在、AIが仕事を奪うのではないかという声がちらほらと挙がってきている*5。実際に仕事が代替され始めるのに数年はかかるだろうが、2038年にそういう世界になっているということは十分リアリティを持って受け入れられる。ロボットが人間の仕事を奪うような設定は真新しいものではないが、これだけリアリティを持ってその設定を受け止められるのは、それだけ時代が追いついたということなのだろう。

 現実との比較という観点では、人類がかつて経験した悪しき風習、人種差別を思わせるような設定もある。バスにアンドロイド専用の乗車スペースが後方にあり、彼らはみな立ち乗りを強要される。変異体ではないアンドロイドは感情や意思を持たないのでそういう扱いに異を唱えることはないが、かつての黒人隔離政策、白人優先席を思い浮かべるような設定だ。

 キャラクターや建造物のリアルな造形・グラフィックと、今の時代の延長線上であり、かつ歴史の再現を感じさせる設定がプレイ中に納得感を、ひいては深い没入感を与えてくれる。

自我を持ちはじめる主人公たち

 このゲームの主人公は3体のアンドロイドたちだ。チャプターごとに操作する主人公が切り替わり、基本的には各キャラのストーリーを順番に追っていくことになる。それぞれコナー、マーカス、カーラという名前を持ち、全く異なる背景、目的を持って行動している。

コナー

 変異体事件の捜査を担当する最先端プロトタイプのアンドロイド。変異体が大量発生し様々な事件を起こす中、事態を収拾させるためアンドロイドの開発会社「サイバーライフ」が開発した。ハンクという警部補のパートナー捜査官として、作中で発生する変異体事件の捜査を行うのがコナー編の主なシナリオだ。

 コナーは非常にユーモラスなアンドロイドで、エレベーターの待ち時間にコイン遊びをしたり、アンドロイドを目の敵にしているハンクと仲良くなろうと聴きもしない音楽の話題を振ってみたり、なかなかお茶目な行動をする。これで変異体でないのか、変異体とそうでない個体の違いはなんだろうかと考えさせられるようなアンドロイドだ。

マーカス

 介護と家事手伝いアンドロイドで、持ち主は裕福な絵かきのおじいさん、カール。持ち主に虐待される描写が多いこの作中で、珍しく恵まれている。さらにカールはマーカスをただの機械ではなく、自我がある生き物のように思っている節がある。マーカスに絵を描かせ、絵で自己表現をするように命じるなどまるで子供を教育しているかのように自分のアンドロイドと接している。

 しかし、当然ながらそんな幸福な時間は長く続かない。カールの息子が典型的なダメ息子で、カールに愛されるマーカスに嫉妬し、マーカスを破壊しようとする。このカールの息子とのいさかいからマーカスの運命は大きく変わっていく。

 マーカスは真面目な性格のアンドロイドで、自分と、そしてアンドロイド全体の行く末を常に案じている。変異体となった自分や他のアンドロイドが生き延びるためにいくつもの選択を迫られる、それが彼の物語だ。

カーラ

 カーラは唯一の女性型アンドロイド。トッドと言うダメ親父が家事と娘の世話のために購入したアンドロイドだ。奥さんとはすでに離婚しており、ご想像の通り娘にもすぐ暴力を振るうような男だ。

 カーラは母性のあるキャラクターで、トッドに襲われる娘、アリスを見て、彼女を守りたい気持ちが芽生え変異体となった。トッドから逃げた2人は安息の地を探してさまようことになる。

圧倒的緊張感

 このゲームは1チャプター2,30分程度で、小気味良いテンポで進んでいくが、その1話1話に圧倒的な緊張感がある。選択肢の選び方次第で物語は大きく変わっていく。平たく言えば、モブキャラだけでなく主要人物たちすらころころ死んでゆくのだ。

 例えばコナー編では凄惨な殺人現場をくまなく調査し、犯罪を犯した変異体たちを追い詰めていく。本当に犯人を追い詰めるような局面では制限時間がある中選択を迫られることも。カーラ編ではアンドロイドと幼い娘が頼るあてもお金もなく街に放り出されるが、やはり理想だけでは生き延びられない。生きるため、悪徳に手を染めるかあなたの判断に委ねられるような選択肢をこのゲームは突きつけてくる。

総評

 とにかくこのゲームは没入感が圧倒的だ。美麗なSFグラフィックに目を見張り、作り込まれた世界観に引き込まれ、圧倒的な緊張感でハラハラしっぱなしの物語。そして、現実世界を振り返ってみても知能のあるアンドロイドが登場するのはそう遠くない世界だろう。このゲームではその未来を先んじて経験することが可能なのだ。

https://www.amazon.co.jp/ソニー・インタラクティブエンタテインメント-【PS4】Detroit-Become-Human/dp/B07B6CLVR8

*1:本当に大切なものはいつだって目に見えない

*2:「ヘビーレイン 心の軋むとき」などが代表作

*3:Quick Time Event。時間制限付きボタン入力のこと。

*4:どうしてイレギュラーは発生するんだろう?

*5:http://president.jp/articles/-/24070